
包丁で人気のブランドはどこなのか?
小説やゲームなどで、よくダマスカス鋼という言葉を耳にする機会があります。しかしその実体については、あまり知られていないのではないでしょうか。ダマスカス鋼は、もとは古代インドで製造されていた鋼です。
錆びにくく、表面に神秘的な模様が浮き出ることから、王侯貴族の刀として愛用されていました。その製法は一子相伝とされ、残念ながら現在では分かっていません。模様が浮き出る理由は、融点の異なる鋼が、炉の中で時間差をおいて結晶化したためだと考えられています。
このダマスカス鋼が、今では包丁として生産されています。現在のダマスカス鋼は、材質の違う複数の金属を鍛錬して、人工的に模様を作り出したものです。新潟県燕市の「藤次郎」ブランドは、このような複合材を用いた包丁の製造を得意としています。
具体的には、コバルト合金鋼の刀身に、ローカーボンステンレスとハイカーボンステンレスを重ねあわせ、多いもので60層以上もの複層構造にして鍛え上げた包丁です。
こういった包丁の刃先には、一本一本に、世界にひとつだけの優美な模様が浮かび上がります。この波紋は「霞流し」とも呼ばれ、日本刀でも見られるものです。つまり日本刀の製造技術を、包丁作りに応用しているわけです。本鍛造された包丁は、鋼材が稠密で狂いが少なく、もちろん切れ味もプロの使用に耐えるものです。
ただし藤次郎は、高級なダマスカス鋼ばかりを扱っているわけではありません。たとえば「利器材」を使用した刃物があります。利器材とは、鋼とそのほかの金属を、あらかじめ金属プレス機で接合した材料です。
これを型で抜き、ハンマーで叩くことで、比較的簡単に複層構造の包丁ができます。手作業ではなく機械式ということで、よいイメージを持つ人は少ないようですが、最近ではプレス加工の技術も向上しており、必ずしも品質が劣るとは限りません。
本鍛造の包丁には、職人の高度な熟練が必要な上に、出来不出来の差もあります。利器材を使用すれば、ある程度まとまった品質の刃物を、安定的に作ることができます。また焼き入れや刃付けなどの作業工程は、本鍛造の製品と変わりません。ですから、コストパフォーマンスには優れているわけです。
藤次郎ブランドの包丁は、使う人や用途に合わせて、さまざまな製品から選べるのが魅力のひとつです。伝統を守りながらも新しい技術を導入しつづけていることが、藤次郎の商品価値を高めていると言えるでしょう。